2023 Issue06
Local Tastes

Delightful Cutsおいしい断面

イチゴやミカンなど、果物と生クリームを挟んだフルーツサンドを中心に、食材の色や形を生かした切り口が美しいスイーツやフードが注目を集めている。インパクトのある見栄えで若い世代を中心に「萌え断(もえだん)」と呼ばれており、ビジュアルでおいしさを伝える断面の人気はSNS全盛の時代を反映しているようだ。イートインや店舗で購入するだけにとどまらず、自宅で手づくりする人も増えており、必要な材料や並べ方のコツなどを公開したレシピや様々なアイデアを紹介する動画サイトも充実している。ひと目惚れするほど吸引力のある断面に込められた、つくり手の想いやおいしさの秘訣を探っていく。

ボンボンロケットの「クリームサンディーズ」
Tel. 078-200-6576 
https://bonbonrockett.com/

色とりどりの具と酢飯を海苔で巻いて食べやすく切り分けた太巻きに、魚肉のすり身を主原料にした渦巻き模様の鳴門巻きなど、日本には古くから特徴的な断面をもつ食べ物は存在した。

流通手段や保存・加工技術が飛躍的に進化し、新鮮な果物や野菜が手に入りやすくなった現代、ビジュアルを重視したアレンジが可能となり、訴求力の高い断面フードはSNSを通じて認知度が高まった。

/ ゼリーのイエの「デコレーションモアリッチ」
Tel. 0246-84-8442 
http://zerry-no-ie.net/

/ タヌキ アペタイジングの「ベーグル」
https://www.instagram.com/tanukiappetizing/

つくり手側の意図はどうだろう。誕生日用の大きなゼリーをリクエストされたことがきっかけになったという「ゼリーのイエ」は「発送する際に形が崩れないよういろいろな種類のゼリーを使いながら、それぞれのパーツ毎に時間をかけて静かに固めていく工程を繰り返した」と創作秘話を明かしている。

「アトリエ ド テリーヌ メゾン オケイ」の自然野菜の10種のテリーヌは、色とりどりの野菜を使うことで季節感や日本の大地を表現したもの。「既存の型を使いながら固めるという概念を取り払い、包み込むようにしてアレンジしました。無農薬野菜の旬のおいしさをシンプルに楽しんでもらえたら」と語るオーナーの片寄雄啓氏。

/ アサコ イワヤナギ プリュスの「パルフェ ア アンポルテ」
Tel. 03-6809-8355 
https://asakoiwayanagi.net

/ アトリエ ド テリーヌ メゾン オケイの「自然野菜10種のテリーヌ」
Tel. 03-6413-0112 
https://www.instagram.com/atelier_de_terrine_maison_okei/

「アサコ イワヤナギ プリュス」の持ち帰り用パフェは層の順番や素材の濃度を考え、味を損なわないような微調整を加えるなかで、「意外な組み合わせによる相乗効果が生まれることがある」という。

「旬のフルーツが美しく、みずみずしく見えるカット面を上部にまとめ、下にいくにつれてソースやクリーム、ジュレのアクセントを加えてひとつの器で重層的なおいしさを表現しています」

伝統の和菓子でも断面にこだわった逸品がある。日本の象徴・富士山の四季の移ろいを表現した「和菓子 結」の棹菓子は「職人が一棹一棹手作業で製造していて、どこを切っても同じ表情がないように配色や意匠を施しています」と、広報担当者。

/ 和菓子 結 六本木ヒルズ店の「あまのはら」
Tel. 03-5411-1133 
http://www.wagashi-yui.tokyo/

/ 珍味の喜久屋の「柿鳴門」 
Tel. 075-221-4416
http://www.kyoto-kikuya.jp/

このほか見た目の美しさを追求した結果、おいしさにつながったケースと、おいしさを追求した結果、見栄え良く仕上がったケースがあるのも興味深い。

「商品単体をいかに美しくつくるかはもちろん、ショーケースにベーグルを並べたときのことまで考えてつくるようにしています」とは、「タヌキ アペタイジング」の店主。

美しい断面は食材の鮮度の証しであり、つくり手の高い技術や感性、美意識に裏打ちされた潮流といえるだろう。

寿司、蕎麦、うなぎと並び、江戸前の食文化を代表する天ぷら。東京には数多の店が点在するが、材料も調理法もシンプルなだけに奥が深く、味の違いは職人の腕によるところが大きい。そうしたなか、安定感のある味わいで一風変わった天ダネを堪能させる評判の一軒が、東京・麻布十番の「天ぷら たきや」だ。「食材が持つ本来のおいしさを最大限引き出すため、天ぷらという手法をどのように駆使するか。そこが腕の見せどころです」とは、店主の笠本辰明氏。

名刺代わりの「シャトーブリアン」は、シグネチャーメニューのひとつ。肉類は使わないという江戸前天ぷらの古くからの決まりや伝統の枠を超え、日本料理出身という笠本氏らしい新たな視点と自由な発想から生まれた逸品だ。

牛肉の部位のなかでも希少なフィレ肉を選び、サイコロ状にカットして大葉を巻いてから衣をつけて熱した油に落とす。断面はレアに見えて中心まできちんと熱が入っており、焼いたものよりも天ぷらのほうが肉のうま味が凝縮している。油っぽさは微塵もなく、後味も軽やかだ。「大葉を巻くのが大事なポイント。ステーキは表面を焼き固めますが、裸のまま肉を揚げると肉汁が逃げてしまうので、大葉という服を一枚着せることでワンクッションおいて火が入ります。天ぷらは油でおいしさを引き出す、揚げ蒸し料理ともいえます」

もうひとつの看板メニュー「ウニ」も秀逸だ。使用するのはミョウバンを使っていない北海道の塩水ウニ。とても柔らかく難易度が高いというが、相性の良い海苔で包み、衣をまとわせる。揚げている最中、中の状態は見られないが、油の音と衣の色、素材から立ち上る香りで見極めるという。包丁を入れると、外側は水分が抜けてホクッとした状態で、中心にいくほど火がじんわりと入ってとろりとした仕上がり。口に運ぶと生ウニよりも香りと甘みが際立ち、驚かされる。

「江戸前は本来、天ぷらに包丁は入れないのが流儀。魚介はキス、メゴチなど尻尾のついた一本ものしか揚げません。アナゴの場合、東京湾のものは泥臭さが残るため香り高いゴマ油で、箸でバチッと割れるまでしっかり揚げるのが良いとされてきました。今は流通事情も進歩したので、箸で割って見せるのはある種のパフォーマンス。当店の場合、ウニは食べやすいよう包丁で切りますが、中から熱が逃げようとするので余熱でさらに火が入る。お客様の口に入るタイミングを見計らい、食べるときが最高潮のおいしさになるよう逆算して仕上げます」

天ぷら たきや
東京都港区麻布十番2-8-6 ラベイユ麻布十番 2F
Tel. 03-6804-1732

衣ありきの素材ではなく、素材ありきの衣。あくまで食材にフォーカスするのが笠本氏のスタンスだ。「おいしさはもちろん、見た目にも美しく、食べやすさも考慮した天ぷらを追求したら、このスタイルに行きつきました。おいしそうな料理は色っぽさがある。味を構成する上で見た目も大事な要素のひとつです」

東京・台東区根岸で120年以上の歴史を受け継ぐ「金太郎飴本店」。屋号でもあり「どこを切っても同じ顔」のキャッチフレーズで愛される「金太郎飴」は、断面フードの元祖といえる存在だ。たくさんあるとユーモラスだが、よく見ると笑い顔、怒った顔、困った顔と表情はいろいろ。一粒一粒に個性があり、温かみと懐かしさを感じさせる。

明治の初めに初代・菊松氏が露天商として三ノ輪の地で飴を売り始め、明治後期に二代目・謙一郎氏が会得した絵柄の入った組飴の技術を応用。金太郎の顔の入った飴を完成させたという。

「発売した当時は甘い物が貴重で、子どもが丈夫に育つのが難しかった時代。昔話の主人公で、強くて元気な子どもの象徴・金太郎のように育ってほしいとの願いも込めてモチーフにしたと聞いています」と語る、代表取締役の渡邊彰男氏。

まず原料となる砂糖と水飴を煮詰めていき、飴の塊にしたものを練りながら空気を含ませ、色を加えて金太郎の顔をパーツ毎につくっていく。飴は冷めると固くなって整形しづらいが、あまり温度が高くても柔らかくなり過ぎていずれもまとめるのが難しい。温度を見極めながらの作業だ。

目、鼻、口、髪の毛、まつ毛、眉毛、肉付き、輪郭と顔のパーツの表面に水をつけ、密着させるようにして土台を組み上げていく。金太郎飴の原型は直径35cm、長さ70cm、重さ40~50kg にもなり、職人が2人がかりで台の上で転がし、整形する。最後に機械を使って細く、長く、絞っていき、コンコンと包丁で切れば、可愛らしい金太郎飴の完成だ。昔はまつ毛がなかったそうだが、時代とともに材料や温度調整の技術が進化し、より繊細な細工が施せるようになったという。

金太郎飴本店
東京都台東区根岸5-16-12 
Tel. 03-3872-7706
https://www.kintarou.co.jp/

「子どもの顔なので目はぱっちりと大きく、血色の良い赤ら顔。最終的に良い顔になるように組み上げますが、不思議とつくり手の顔に似てくるものです。数が多くても同じ物を正確につくることが技術力であり、ものづくりの基本ですが、職人によって組み方や色の付け方も違いますし、切り方ひとつで顔の見え方が変わってくる。それが欠点でもあり、魅力でもあります」

小さな飴の断面から、つくり手のこだわりと時代の変遷が垣間見えるようだ。

Text: Mamiko Kume
Photos: Shinsuke Matsukawa
Styling: Yoko Watanabe

この記事は、2023年2月発行の「THE PALACE」Issue 06掲載の内容をベースに、2024年2月現在の情報として掲載しています。2023年の取材撮影時の写真やテキストを使用しているため情報が更新されていない部分もございます。ご了承ください。

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