2023 Issue06
One Day Trips

Bathe in Nature Fujigoko自然に包まれる休息 富士五湖

アウトドア体験施設「ウォータークラブ」では、カヌーやSUPのほか、マウンテンバイク、ほうとうづくり体験などのメニューも提供している。山中湖は一周約14km。自転車でひとめぐりするサイクリングロードもある。ウォータークラブの岩下 聖氏によれば「湖上アクティビティの初心者には、山中湖がおすすめです」。

ウォータークラブ 
山梨県南都留郡山中湖村平野1910 
Tel. 0555-65-9988

日本一の高さを誇り、秀麗な姿で人々を魅了する富士山。2013年には「信仰の対象と芸術の源泉」としての価値が認められ世界文化遺産に登録された。その富士山の北側を取り囲む山中湖、河口湖、西湖、精進湖、本栖湖を総称する「富士五湖」もまた、構成資産として登録を果たした。度重なる富士山の噴火により誕生した五湖は、それぞれに面積や水深、透明度が大きく異なり、食事やレジャーを楽しむ周辺の施設も多種多様。ことに四季折々の自然と富士山が織りなす佳景は古くから歌や絵画、小説などにも描かれており、富士五湖周辺は日本でも屈指の景勝地である。

春は桜や芝桜、夏はヒマワリやラベンダー、秋は紅葉やコキア、冬はダイヤモンド富士や紅富士とともに湖を写せば、それだけで一枚の絵葉書が完成する。カヌー、SUP、ボートなど水上アクティビティは各湖で楽しむことができる。湖上で風を感じ、富士山を眺めながら、大自然の息吹を体感するのもまた、最上の過ごし方だろう。

湖畔に集い、遊ぶ

三国峠パノラマ台より山中湖を見る。

富士五湖のうち山中湖、河口湖、精進湖の最大水深は13m~15mだが、西湖は約71m、本栖湖に至っては120m以上もあり、透明度も様々。山中湖畔から三国峠に至る途中のパノラマ台は、富士山と山中湖を一望することができるビューポイントだ。

富士五湖が位置する山梨県郡内地域は、かつて「甲斐絹(かいき)」という織物の一大産地だった。暑すぎず寒すぎない気候が養蚕に適していたこともあり、着物や羽織に用いられる高級絹織物として1940年頃まで発展の一途を辿る。しかし和服が日常から姿を消すに伴い終焉を迎えることに。だが培われた機織りの歴史と技術は、綿や麻などを用いた新しい織物産業へと継承されていくことになる。

テンジンファクトリー
山梨県富士吉田市下吉田7-29-2
Tel. 0555-22-1860
*ショップと工場の見学は事前予約が必要

リネンの生地と製品を製作販売する「テンジンファクトリー」の小林新司氏は三代目。現在はエコテックス認証を受けたヨーロッパのリネン糸を使用。乳幼児でも安心して使える製品づくりに余念がない。「うちではアナログなシャトル織機を導入しています。メンテナンスや仕上げ処理に手間はかかりますが、この機械でしか出せない風合いや柔らかさがあるんです。夏涼しく、冬暖かいリネンは通年使用できる優れた素材です。不純物の少ない富士山の雪解け水は染色に適していて、代々、そうした土地の恩恵を受けてきていると実感しています」

テンジンファクトリーではオーダーでカーテンやブランケット、寝具などの注文ができ、刺繍の柄や色のカスタマイズも請け負っている。

レイクベイク
山梨県南都留郡富士河口湖町大石2585-85
Tel. 0555-76-7585

河口湖畔に佇むパン工房「レイクベイク」は2009年のオープン以来、自家製自然酵母の焼きたてパンが評判を博している。イートインできる店内には約30席、富士山を一望できるテラスにも約30席あり、天気の良い日には行列もできる。超熟発酵のパンは噛めば噛むほど味わいが増す。こだわりのスコーンは年間20 種ほどのバリエーション。ベーキングパウダーを使わなくてもふっくらと仕上がる。「夏は桃、秋は葡萄といった山梨らしい食材も使いますが、必ずしも地産地消にはこだわっていません。それでも水道をひねれば富士山の伏流水が飲めるなんて恵まれていると思います。この軟水がパンの仕上がりにも少なからぬ影響を与えています」と語るのはオーナーの横溝博男氏だ。

特異な環境ゆえの恵み

鳴沢氷穴 山梨県南都留郡鳴沢村8533 
Tel. 0555-85-2301

富士山の火山活動が生み出した自然環境は唯一無二といえる。八か所の湧水群からなる「忍野八海」や「青木ヶ原樹海」は噴火で流れ出した溶岩によって形成されたもの。天然記念物「鳴沢氷穴」も同様に溶岩の水蒸気が噴き出してできた竪穴式洞窟である。地下21m、全長150m、気温3℃の世界には、無数の氷柱が点在。1950年代までは蚕の卵を保存するための貯蔵庫としても利用されていた。隣り合う横穴式洞窟の「富岳風穴」とともに見学する人は多い。

そうした特異な環境に生息する植物や生き物たちも変化に富む。ツキノワグマ、ニホンジカ、カモシカ、ヤマネ、ヒメヒミズなどの動物が低地帯、山地帯、高山帯などに分かれて命脈を保つ。その一方、近年、ニホンジカによる獣害が深刻化。生態系を守るために地元の猟師らがシカを捕獲し、ジビエとして利活用する取り組みが進められる。

「ゴ・エ・ミヨ 2022」でテロワール賞を受けた「トヨシマ」のオーナーシェフ豊島雅也氏は、自身で狩猟したシカを一皿に供する。仕事でこの地へ赴き数年を過ごすうち、豊かな食材に魅力を感じ 2017年に店を開いた。狩猟のほか、自家菜園や養蜂も手掛ける。「実は私も以前はジビエが苦手でしたが、この土地に来てから開眼しました。やはり適切な下処理をした新鮮な肉は違いました。その上、水が良いので、スープやソースにまろやかなコクが出るんです」

店内は樹海をテーマにした装飾。命が育まれる母胎であることを伝えている。各料理にも細やかでありながら、意外性のある演出が施される。例えば山、海、鳥、人家などが描かれた古伊万里の絵皿を、富士山、富士五湖、里に見立て、シカ肉、グーズベリーソースといった土地の収穫物を盛ることでひとつの世界を形づくる。

「ここ数年は仕事と遊びがシームレスにつながっている感じです。僕らの野遊びをそのまま一皿に映して、驚きやユーモアをお客様に届けたいんです。外国からのお客様にも楽しんでいただけるよう、ジビエにシソやフキ味噌といった和のテイストを合わせたりもしますし、土地の果実もふんだんに使います。山梨には誇ることができる食材や食文化が豊富にありながら、いまひとつ発信力に欠けていた気がします。『ゴ・エ・ミヨ』を受けたことで自信がつきましたし、発信することの重要性を確信しました。志を同じくする人たちとさらに連携していくことで、文化や技術を広げていきたいと、今強く感じています。この場所からテロワールの新風を吹かせたいです」

衣食住遊、私たちの営みに大いなる恵みを与えてくれる富士山と富士五湖は、日常を離れ自然のなかに身を置くことができる、東京に最も近いサンクチュアリーのひとつだ。

トヨシマ
山梨県南都留郡富士河口湖町船津3681-2
Tel. 0555-75-0850

Text: Hiroe Nakajima
Photos: Shinsuke Matsukawa

この記事は、2023年2月発行の「THE PALACE」Issue 06掲載の内容をベースに、2024年2月現在の情報として掲載しています。2023年の取材撮影時の写真やテキストを使用しているため情報が更新されていない部分もございます。ご了承ください。

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