2019 Issue01
One Day Trips

Historic Town of Kamakura古都、鎌倉を行く

鎌倉市南西部にある岬、稲村ヶ崎からの夕景。富士山とともに夕日が見られる絶景スポットとして人気。海岸へは江ノ島電鉄線「稲村ヶ崎駅」から徒歩約5 分ほど。

海が見えてきた

鎌倉は、東京から南へ約40 km。三方を山に囲まれ、一方は海に面している。12 ~14 世紀半ばまでこの地には幕府が置かれ、武家社会の礎を築いた。

約11.3 m の堂々たる阿弥陀如来像(鎌倉大仏)や、街の中心に位置する源氏ゆかりの鶴岡八幡宮、「花の寺」として親しまれる長谷寺など、歴史に磨かれた古都の面影を残す鎌倉。その一方で、「湘南」と称される海辺もまた鎌倉の顔であり、おしゃれな若者文化を発信する。

鎌倉駅から磯の香りがする方に歩いていくと、程なく海が見えてくる。東京から電車でわずか1 時間ほどだが、ここには都会のせわしさとは無縁の悠々とした時間が流れている。空気が澄んだ日には、江ノ島や遠くには富士山が見え、特別美しい風景となる。夕暮れ時、空は茜色に染まり、ノスタルジックな空気をまとう。観光客でにぎわう鎌倉の街中とは異なる顔を見せる海辺の風情もまたこの街の魅力である。

瑞泉寺

花咲く街

鎌倉を歩くと、季節の草花をさりげなく飾っているカフェやレストランが多いことに気づく。季節の移ろいに心を寄せる暮らしがここにあり、それはまたこの街を訪れる人々をもてなす温かな気持ちの表れでもあるように思う。

歴史を重ねた趣ある寺社が多いのが鎌倉の魅力だが、花々はそれぞれの寺社にも咲き乱れ、観光客の人気を博す。とりわけ見事なのは、「鎌倉の西方極楽浄土」と呼ばれる長谷寺。観音山の広大な境内には四季を通して花が咲き乱れ、初夏は藤、牡丹、紫陽花で古刹が華やかに彩られる。

  • 長谷寺
  • 明月院

また明月院には2500 株のヒメアジサイが咲き、境内が淡い青に染まるその様は「明月院ブルー」と呼ばれる。白梅で知られる瑞泉寺は、夏を迎えると真っ白な芙蓉の花が咲く。

花々は、深い杜の緑と歳月を経た建造物や石段に趣を添え、見る人の心を潤す。

「ポール・ボキューズ」や「ひらまつ」で活躍した池田正信氏が、鎌倉野菜に魅せられて開店したフレンチレストラン。野菜をたっぷり使った花畑のような前菜も味わえる

ラ・ヴィ
神奈川県鎌倉市由比ガ浜2-11-9
Tel. 0467-95-2585
https://www.lavie-kamakura.com/

鎌倉野菜の滋味

四方を山と海に囲まれた鎌倉は、野菜づくりに適した温暖な土地である。夏は、海が近いことで比較的気温の上昇が抑えられ、冬は雪が降るのは珍しく、野菜が受けるダメージが少ない。鎌倉では露地栽培をする農家が多い。野菜は自然の恵みをたっぷりと受け、潮風に吹かれて育つことでミネラルを多く含む。鎌倉野菜が「力強い濃厚な味がする」と言われるゆえんである。有名シェフたちがそのおいしさに注目し、鎌倉野菜は近年ブランド野菜として人気を集めるようになった。農家もそれに応えようと、定番野菜はもちろん、ロマネスコ、ズッキーニ、アーティチョークなどの西洋野菜やフェンネルなどのハーブを積極的に栽培するようになり、その種類は現在、約100種を数えるという。

築90年の趣ある古民家で、天然素材を使用した身体に優しい和食を提供。鎌倉野菜を使った季節の八寸は目にも満足。土鍋ご飯も名物だ。

茶房 空花
神奈川県鎌倉市由比ガ浜2-7-12-22
Tel. 0467-55-9522
https://r.goope.jp/hasesorahana/
写真は、2019年2月の「空花」取材撮影時のものです。「空花」は2020年10月に東京 虎ノ門に移転いたしました。現在は東京・虎ノ門「空花」と神奈川・鎌倉「茶房 空花」の2店舗にて営業を行なっています。

鎌倉駅の程近く、連日料理のプロや土地の人、また観光客でにぎわう「鎌倉市農協連即売所」。1928 年に創設され90 年の歴史を刻む即売所は、鎌倉の食を支えるシンボルである。鎌倉野菜は、料理のジャンルを超えて様々な料理となって供される。四季のある日本ならではのみずみずしい味と香り。世界が目をみはる滋味豊かな日本ブランドの野菜は、ここ鎌倉でも意気盛んである。

古民家に憩う

鎌倉には江戸時代から昭和にかけて建てられた古い建造物や民家があちらこちらに残り、訪れる人々の目を楽しませる。古民家を改築したカフェも多い。一条恵観山荘内にある「かふぇ楊梅亭(やまももてい)」 から眺められるのは、370年ほど前に京都に建てられ、この地に移築された山荘。随所に雅な意匠と遊び心が垣間見えるこの建物は、京都の公家がサロンとして使っていたものだという。文豪・大佛次郎がもてなしの家とした建物を週末だけカフェとしているのは「大佛茶廊」。大正時代に建てられた家を大佛次郎が1952 年に購入。文士たちの交流の場であったという。一方「石かわ珈琲」は築5 0 年ほどの民家を改築。ここで暮らした子どもが身長を記録したであろう柱の傷がほほ笑ましい。

それぞれの古民家に、古都に生きる人たちの誇りと歴史を慈しむ心が息づいている。

後陽成天皇の第九皇子であり、摂政・関白を2度務めた一条恵観が親しんだ山荘。1959年に鎌倉に移築され、庭石や枯山水も当時と同じように配置された。重要文化財。「かふぇ楊梅亭」は敷地内に併設。

一条恵観山荘
神奈川県鎌倉市浄明寺5-1-10
Tel. 0467-53-7900
https://ekan-sanso.jp/
写真は、2019年2月の取材撮影時のものです。
お料理の内容は変更になる場合がございます。

大正時代に建てられた茅葺き屋根に数寄屋造りが、どこか懐かしい。ネルドリップで丁寧に抽出した珈琲や上生菓子を添えた抹茶を美しい庭を眺めながら楽しめる。

大佛茶廊
神奈川県鎌倉市雪ノ下1-11-22
2022年10月現在、「大佛茶廊」は閉店しました。

築50 年ほどの民家のリビングをリノベーションしてスペシャルティコーヒー専門店に。元々は東京で会社員をしていたというオーナーによる、こだわりの一杯を落ち着いた雰囲気で味わえる。

石かわ珈琲
神奈川県鎌倉市山ノ内197-52
Tel. 0467-81-3008
https://ishikawa-coffee.com/
2022年10月現在、店内利用は休止中。コーヒー豆の販売とテイクアウトのみの営業となっています。

Text: Kyoko Takahashi
Photos: Sadato Ishizuka, Amana Images

この記事は、2019年2月発行の「THE PALACE」Issue 01掲載の内容をベースに、2022年10月現在の情報として掲載しています。2019年の取材撮影時の写真やテキストを使用しているため情報が更新されていない部分もございます。ご了承ください。

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